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Novel

【オセロ】

 

 

 

「オセロですか?」

「他に何に見えるんだ」

 

 

いつものように探偵事務所の扉を開くと、見慣れた机の上に見慣れない緑色の板があった。

その側に立っている先輩は不思議そうな顔をして僕の方を見ている。

 

緑色の、マス目のある板に、黒と白……。

ふむふむ。これは……間違いなくオセロですね!

 

「ってそうじゃなくて!」

「……大丈夫か……?」

 

心配してくれる先輩。やっぱり先輩は優しいです!

でも、なんだか話が噛み合っていない気が……まあいいか!

 

 

 

「先輩もオセロするんですね〜! 強いんだろうな〜!」

「いや、これは…」

「はっ!! もしやオセロが得意なお客さんが依頼の相談に来ていて、その接待に!?」

「……」

「ちょっと暗くて怪しい雰囲気の中……。テーブルゲームをしながら難しい話を……。」

「何の話だ……」

 

映画で見たことがあるような情景が、ありありと想像できてしまう。

それぐらい、先輩とオセロってなんだか似合うというかなんというかで!

 

 

「ああ〜〜! 見たかった〜〜!」

 

 

落ち込む気持ちのままにソファに転がって、ちらりと先輩のほうを見ると、

やっぱり心配そうな顔をしていた。

うーん。でも今は、それだけじゃない、かも?

 

 

「……先輩、困ってます?」

「…………」

「困ってますね〜!? 僕、何かしちゃいました? うるさかったですかね……?」

 

 

先輩とはいつもこんな感じで、先輩は感情というか、気持ちというか……そういうものが、自分ではよく分からないらしい。

 

 

 

 

 

『先輩が分からなくても、僕が分かりますから!』

 

出会って少し経ったころ、僕がそう言ったときの先輩の顔を今でもしっかり思い出せる。

あれ以来、僕は先輩の気持ちに気付いたら言うことにしていて、その度に先輩はいろんな顔をする。驚いていたり、喜んでくれている気はするけれど、戸惑ったり、悲しんでいる時もあるような気がして、その時の先輩の表情は、今の僕には難しい。

でも、ここだけの話、先輩に必要とされている感じがして、嬉しかったり…………。

 

 

 

「……。そうだな。困っていたのかもしれない。静かに話を聞いて欲しいんだ。なつき」

「はい」

「まず、オセロは得意じゃない」

「ええっ!?!?!?」

「…………」

「…………」

「…………そして、依頼者も来ていない。更に言えば、その……そういった場面で使われるのは、

持ち時間の少ないオセロじゃなくチェスや将棋だ」

 

 

 

そう言って先輩は、あの時みたいに笑ってくれた。

 

 

 

【オセロ ー続ー】

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